パーソナルトレーナーの契約書テンプレートと書き方|フリーランス新法対応2024年版

パーソナルトレーナーの契約書テンプレートと書き方|フリーランス新法対応2024年版 トレーナーキャリア

フリーランスや独立系のパーソナルトレーナーとして活動する上で、契約書の整備は業務トラブルを防ぐための根幹となる。ところが「口頭での約束が多く、何かあったときに証拠がない」「ジムから不当な条件を提示されても断れない」「クライアントが急にキャンセルしても補償が受けられない」といった相談は後を絶たない。

2024年11月1日、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランス保護新法)が施行された。これにより、パーソナルトレーナーへの業務委託を行うジム事業者側には、取引条件の書面明示義務が課せられることになった。契約書を整備する重要性はこれまで以上に高まっている。

本記事では、パーソナルトレーナーが実務で必要とする2種類の契約書(ジムとの業務委託契約・クライアントとの個人契約)について、必須記載事項と書き方の要点を、フリーランス保護新法への対応を踏まえて解説する。

なぜパーソナルトレーナーに契約書が必要なのか

トラブルの実態

東京都消費生活センターへのパーソナルトレーニングに関する相談件数は増加傾向にある。主なトラブルの類型は次のとおりだ。

  • セッション中の怪我についてジムまたはトレーナーに補償を求めたが、責任の所在が不明確だった
  • 途中解約時の返金をめぐって紛争になった
  • 成果が出ないとして全額返金を求められた
  • ジムとの業務委託で報酬の計算基準が不明確で、支払い額が一方的に変更された

これらのトラブルに共通するのは「口頭での合意しかなかった」か「契約書の記載が不十分だった」という点にある。

契約書がもたらす3つの効果

第一に、当事者間の合意内容が明確になる。何をどの金額で提供するかが文書化されることで、認識のズレを防ぐことができる。

第二に、紛争になった際の証拠となる。書面がなければ「言った・言わない」の水掛け論になりやすい。

第三に、プロとしての信頼性が高まる。契約書を提示することは、サービスの品質管理に対する姿勢を示すことでもある。高額なパーソナルトレーニングを依頼するクライアントにとって、契約書の存在は安心材料になる。

フリーランス保護新法が課す義務

2024年11月1日に施行されたフリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)により、企業(ジム事業者)がフリーランスのパーソナルトレーナーに業務を委託する場合、書面またはメール等の電磁的方法で取引条件を明示する義務が生じた。

明示が必要な主な事項は次のとおりだ。

  • 業務の内容
  • 給付を受領する期日
  • 報酬の額
  • 支払いの期日
  • 業務提供場所
  • 業務の期日

この義務はジム側に課されているが、トレーナー側もこれらの内容が契約書に盛り込まれているかどうかを確認することが重要になる。

2種類の契約書:ジムとの業務委託契約 vs クライアントとの個人契約

パーソナルトレーナーが扱う契約書には大きく2種類がある。それぞれの目的と法的性質を理解しておくことが、適切な契約書作成の前提となる。

項目 ジムとの業務委託契約書 クライアントとの個人契約書
当事者 ジム事業者 ↔ トレーナー(個人事業主) トレーナー ↔ エンドクライアント
法的性質 準委任契約または請負契約 準委任契約(役務提供契約)
主な目的 報酬・就業条件・独立性の確保 サービス範囲・免責・中途解約条件の明確化
フリーランス新法の適用 ジム側の明示義務あり 消費者契約法が適用される場合あり
重要ポイント 専属禁止・競業避止の有無 全部免責条項の無効に注意

業務委託契約の法的性質

「業務委託契約」という名称に法律上の定義はなく、実態として「請負契約」か「準委任契約」のいずれかに分類される。

請負契約は結果(成果物)の完成を約束するもの、準委任契約は業務の遂行そのものを約束するものだ。パーソナルトレーニングの場合、「ダイエット成功」という結果を保証するものではなく、適切な指導業務を遂行するものであるため、一般的には準委任契約として整理される。

注意すべき偽装請負リスク

業務委託契約を締結していても、実態として「指揮命令関係」があれば労働者性が認められ、労働基準法の適用を受ける可能性がある。以下の条件が多く当てはまるほど、労働者性が高いと判断される。

  • ジムが指定した時間帯にのみ指導できる
  • ジムが指定した方法・カリキュラムに従わなければならない
  • 他社(ジム)での活動が禁止されている
  • 報酬が時間給的に計算されている

業務委託でありながら実質的に専属的・従属的な働き方を求められている場合は、労働基準監督署への相談も選択肢となる。独立した事業者として活動するためには、業務遂行上の独立性を確保することが重要だ。

詳しくはパーソナルトレーナーの業務委託のメリット・デメリットも参照してほしい。

フリーランス保護新法(2024年11月施行)が変えた契約書の書き方

法律の概要

フリーランス保護新法は、発注事業者(ジム等)と受託者(フリーランスのトレーナー等)との間の取引を適正化することを目的として制定された。適用対象となる「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である個人または法人格を持たない団体で、従業員を使用していない者を指す。

個人事業主のパーソナルトレーナーが、法人であるジムから業務委託を受ける場合は原則としてこの法律の適用を受ける。

ジム側が負う主な義務

ジム事業者には、業務委託に際して次の事項を書面または電磁的方法で明示する義務がある(法第3条)。

  • 委託する業務の内容(セッション数・内容・対象クライアント層等)
  • 報酬の額
  • 給付を受領する期日(業務の納期・実施日)
  • 支払期日(報酬の支払い締め・振込日)
  • 業務提供場所(施設名・住所)

加えて、継続的な業務委託(6か月以上)に際しては、ハラスメント防止措置の整備も義務付けられた。

トレーナーが確認すべき点

フリーランス新法施行後であっても、ジム側から適切な書面が提示されないケースは起こりうる。トレーナー自身が、以下の点を契約書または別途の覚書で明確化する習慣を持つことが重要だ。

  • 業務委託料の計算方式(セッション単価、月額固定など)
  • 支払いサイト(月末締め翌月末払いなど)
  • キャンセル時の報酬の取り扱い
  • 業務委託期間と中途解除の条件
  • 損害賠償の上限

業務委託契約書の必須記載事項と書き方

ジムとの業務委託契約書に盛り込むべき主要条項と、その記載にあたって注意すべき点を解説する。

必須記載事項チェックリスト

条項 内容 注意点
業務内容 担当セッションの内容、対象クライアント属性 「その他業務」として際限なく拡大されないよう具体化する
委託料 単価・計算方式・インセンティブの有無 報酬変更の手続き(合意要件)も明記する
支払い条件 締め日・振込日・振込手数料負担 フリーランス新法では60日以内の支払いが原則
業務場所 施設名・住所 複数施設を掛け持ちする場合は全施設を記載
契約期間 開始日・終了日・更新方法 自動更新条項がある場合は解除通知期限を確認
中途解除 解除の通知期間・損害賠償の有無 一方的な即日解除は不当な契約となりえる
専属禁止・競業避止 他施設での活動制限の有無・範囲 合理的な範囲を超える制限は公序良俗違反の可能性
知的財産権 作成した指導プログラムの帰属 特段の定めがない限りトレーナー帰属が原則
秘密保持 クライアント情報の取り扱い 個人情報保護法との整合性を確認
損害賠償 賠償の範囲・上限 上限設定がない場合は交渉で設ける

報酬条項の書き方

報酬条項は最もトラブルが発生しやすい箇所だ。単価と計算方法を具体的に記載する。

記載例:「甲(ジム)は乙(トレーナー)に対し、乙が提供したパーソナルトレーニングセッション1回(60分)につき金○○○○円(税込)の業務委託料を支払う。前月16日から当月15日までに提供したセッション分を集計し、当月末日限り乙の指定する銀行口座に振り込む。振込手数料は甲が負担する。」

専属禁止条項への対応

一部のジムは「他のジムでの活動を禁止する」旨の専属禁止条項を設けることがある。完全な専属禁止はフリーランスとしての独立性を著しく損ない、実質的な偽装請負につながる恐れがある。

受け入れられる範囲としては「直接競合する同業態ジムへの転籍禁止(契約終了後6か月以内・半径5km以内等)」のように地理的・時間的・業種的に限定されたものが一般的だ。

合理的な範囲を超える専属禁止・競業避止条項については、契約締結前に修正を求めることができる。応じない場合は公正取引委員会への相談も選択肢となる。

クライアント向け個人契約書の必須記載事項

エンドクライアント(一般消費者)に対してパーソナルトレーニングを提供する場合の契約書について解説する。消費者契約法の適用を受けるため、ジムとの業務委託契約とは異なる注意点がある。

消費者契約法上の注意点

消費者契約法が適用される場合、次の条項は無効となる可能性がある。

  • トレーナーの故意・重過失による損害について免責する条項(全部免責条項)は無効(消費者契約法第8条)
  • クライアントに不当に不利な解約条件や違約金条項
  • 消費者の利益を一方的に害する条項

特に注意が必要なのは免責条項だ。「いかなる場合もトレーナーは責任を負わない」という全部免責条項は消費者契約法により無効と判断される可能性が高い。「故意または重大な過失がある場合を除いて、損害賠償の上限をセッション料金の○か月分とする」のように一部免責として記載することが求められる。

必須記載事項

1. サービスの内容と範囲

提供するトレーニング指導の具体的な内容、1回のセッション時間、対象とする運動強度の範囲、栄養指導の有無と範囲(医療行為に該当する指導は行わない旨の明記が必要)を記載する。

2. 料金と支払い方法

セッション料金(税込か税別かも明記)、支払いタイミング(前払い・当日払い・月次請求等)、複数回パックの有効期限を記載する。

3. キャンセルポリシー

キャンセルが発生した際の取り扱いは、トレーナー収入に直接影響する最重要事項のひとつだ。「セッション開始の24時間前以降のキャンセルについては、セッション料金の100%をキャンセル料として申し受ける」のように、キャンセル通知の期限と発生する料金を明確に定める。

消費者契約法上、過大なキャンセル料は無効となる可能性があるが、トレーナー側の損失(準備時間・他の予約を断る機会損失)を合理的に反映した金額であれば有効と判断されやすい。

4. コンディション申告義務

クライアントが既往症・投薬状況・妊娠・整形外科的問題などを事前に申告する義務を定める条項は、トレーナー側のリスク管理上欠かせない。

記載例:「甲(クライアント)は、現在および過去の疾患・負傷・薬物服用等について、乙(トレーナー)に対し正確に申告するものとします。申告漏れまたは虚偽申告により生じた損害について、乙は責任を負いません。」

5. 医療行為の除外

パーソナルトレーナーは医師・管理栄養士等の国家資格を有さない限り、医療行為および医療的な栄養指導を行う権限を持たない。「本サービスは医療行為に代わるものではなく、疾患の診断・治療・処方を行うものではありません」という旨の明記が必要だ。

6. 中途解約条件

クライアントが複数回パックを購入した後に中途解約する場合の返金計算方法を明記する。特定商取引法の適用を受ける場合(訪問販売・電話勧誘販売等)はクーリングオフ規定も適用される。

7. 個人情報の取り扱い

身体情報(体重・体組成・血圧等)および氏名・連絡先等の個人情報の利用目的と管理方法を記載し、第三者提供への同意取得を行う。

開業時の準備として

パーソナルトレーナーの開業手順では、契約書の整備を含む開業準備の全体像を解説している。独立を検討している方は合わせて参照してほしい。

トラブルを防ぐ5つのポイント

契約書を作成しただけでは十分ではない。運用上の留意点も含めて、トラブルを未然に防ぐための5つのポイントを整理する。

ポイント1:契約書は必ず双方が署名・押印(または電子署名)する

口頭での合意や、一方から送付しただけの書面(相手方の同意なし)は証拠力が弱い。電子契約サービス(クラウドサイン・DocuSign等)を活用すれば、メールアドレスで完結する電子署名が可能だ。印紙税の節約にもなる。

ポイント2:体験セッション前にも最低限の同意書を取得する

体験セッションは「まだ本契約ではないから書類不要」と考えがちだが、怪我のリスクは体験でも同様に存在する。コンディション申告書と免責同意書の簡易版を体験前に取得しておくことが重要だ。

ポイント3:契約内容を変更する場合は必ず覚書を作成する

一度締結した契約書の内容を変更する場合、口頭での合意は有効だが証明が困難だ。「変更覚書」として変更箇所のみを書面化し、原契約書と一体として保管する。

ポイント4:損害賠償保険(スポーツインストラクター賠償責任保険等)に加入する

契約書に免責条項を設けていても、故意・重過失による損害は免責されない。万が一のセッション中の事故に備え、スポーツインストラクターを対象とした賠償責任保険への加入は事業上の必須コストと考えるべきだ。日本フィットネス協会(JAFA)や各資格団体が提携する保険商品もある。

ポイント5:税務・社会保険の視点からも契約内容を整理する

業務委託で得た報酬は事業所得として確定申告が必要だ。パーソナルトレーナーの確定申告で詳述しているとおり、契約書は経費の実態を証明する書類としても機能する。また、社会保険の扱いについてはパーソナルトレーナーの社会保険手続きを参照してほしい。

フリーランスとして複数のジムと契約する場合や、SNSを活用して個人集客を行う場合も、各取引先との契約書を個別に整備し、一元管理できる体制を構築することが事業の安定につながる。

よくある質問(FAQ)

Q1. パーソナルトレーナーが契約書を作成するのに行政書士等への依頼が必要ですか?

A. 法律上は不要で、自分で作成することができます。ただし、専門家に確認してもらうことでリスクを低減できます。書式の信頼性を高めたい場合や、高額なサービスを提供する場合は、弁護士または行政書士に依頼することを検討してください。法テラスや地方自治体の無料法律相談を活用することも有効な手段です。

Q2. 電子契約(メール添付のPDFへの電子署名)は法的に有効ですか?

A. 原則として有効です。民法上、契約は書面でなくても成立するため、電子データによる合意も法的な効力を持ちます。クラウドサインやDocuSignなどの電子署名サービスを利用すると、署名済みデータのタイムスタンプや否認防止機能が付与されるため、さらに証拠力が高まります。なお、紙の契約書には収入印紙が必要になる場合(4万円以上の請負等)がありますが、電子契約の場合は印紙税が不要になるというメリットもあります。

Q3. ジムから一方的な契約変更(報酬の引き下げ等)を求められた場合、拒否できますか?

A. 契約書に変更条件が定められている場合はその手続きに従います。定めがない場合、契約内容の変更は双方の合意が必要であり、一方的な変更は原則として無効です。フリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、発注事業者による優越的地位の濫用的な行為が禁止されており、正当な理由のない不当な報酬減額は同法違反となる可能性があります。受け入れ難い場合は、公正取引委員会または厚生労働省(フリーランス相談窓口)に相談することを検討してください。

Q4. クライアントからトレーニング中の怪我について損害賠償を請求されました。契約書の免責条項は有効ですか?

A. 消費者(個人のクライアント)との契約では、消費者契約法の適用により、全部免責条項(いかなる場合も一切責任を負わないとする条項)は無効となります。ただし、一部免責(故意または重大な過失を除いて賠償額を一定金額に限定する条項)は一般的に有効とされます。怪我が生じた原因がクライアントの虚偽申告やコンディション申告義務違反にある場合は、過失相殺が認められる可能性があります。いずれの場合も、当事者間での解決が困難な場合は弁護士へ相談することを強くお勧めします。

Q5. 複数回セッションパックの販売後、クライアントから全額返金を求められました。応じる義務はありますか?

A. 契約書にキャンセル・返金ポリシーを明記している場合は、その条件が適用されます。ただし、消費者契約法上、実際の損失額を大幅に超える違約金条項は無効となることがあります。適正な範囲での返金計算(未使用分の残額から手数料等を差し引く)を行い、書面で回答することが重要です。トレーニングが訪問販売や電話勧誘販売等に該当する場合は、特定商取引法に基づくクーリングオフ(法定解除)が適用される可能性があります。

Q6. フリーランス保護新法は個人と個人の取引にも適用されますか?

A. フリーランス保護新法が規制するのは、発注者が「業務委託事業者(法人または従業員を使用する個人事業主)」であり、受託者が「特定受託事業者(従業員を使用しない個人事業主等)」である取引です。個人のクライアントが個人トレーナーと直接サービス契約を結ぶ場合は同法の適用対象外となりますが、消費者契約法や民法の適用は受けます。

Q7. 契約書の保管期間はどれくらいが適切ですか?

A. 民事上の請求権の消滅時効は原則として「権利を行使できることを知った時から5年」または「権利を行使できる時から10年」とされています(改正民法・2020年4月1日施行)。実務上は少なくとも取引終了後5年間は契約書を保管することをお勧めします。また、確定申告の根拠書類としても7年間の保存が推奨されます(青色申告の場合)。電子データでの保管(スキャナ保存)も認められています。

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まとめ

パーソナルトレーナーが安定したフリーランス事業を構築するためには、適切な契約書の整備が不可欠だ。

ジムとの業務委託契約では、フリーランス保護新法の明示義務が事業者側に課されていることを踏まえ、報酬計算方式・支払いサイト・業務の独立性・競業避止の合理性を確認することが重要になる。

クライアントとの個人契約では、消費者契約法の制約を理解した上で、コンディション申告義務・免責条項の適切な設計・キャンセルポリシーの明確化を行うことが、将来のトラブルを未然に防ぐ鍵となる。

契約書は一度作成すれば終わりではない。法改正や自身のサービス内容の変化に合わせて定期的に見直す習慣を持つことが、プロのトレーナーとしての事業運営を支える基盤となる。

GYM SELECT編集部では、パーソナルトレーナーのキャリアと独立開業に関する情報を継続的に発信している。資格取得から独立、税務・社会保険まで、トレーナーとして活躍するための情報を一箇所でまとめている。